今日くらい、何もしない日があってもいい
今日は、たまには何も起こらない一日にしよう。
修行もしない。
訳ありの宿にも泊まらない。
変なことにも巻き込まれない。
ヒトナが昔よく遊びに来ていたという、愛媛県の大谷池へ。
そんなことを言いながら連れてきてもらった私は、池の前で思わず足を止めた。
静かな水面。
広い空。
遠くまで続く緑。
……なにここ。
めっちゃ気持ちいいじゃん。
今日は本当に、ゆる〜い召喚日和になりそう。
この時の私は、そう思っていた。
今日はたまには何も起こらない一日にしよう。修行もしない、訳ありの宿にも泊まらない。ヒトナの思い出の地・愛媛県の大谷池でのんびりピクニック&昼寝デート……のはずが、起きたらあたりは真っ暗!水面に現れた無数の人影に囲まれ、お守りと読経で切り抜ける怒涛の怪異サバイバル召喚記録。
今日は、たまには何も起こらない一日にしよう。
修行もしない。
訳ありの宿にも泊まらない。
変なことにも巻き込まれない。
ヒトナが昔よく遊びに来ていたという、愛媛県の大谷池へ。
そんなことを言いながら連れてきてもらった私は、池の前で思わず足を止めた。
静かな水面。
広い空。
遠くまで続く緑。
……なにここ。
めっちゃ気持ちいいじゃん。
今日は本当に、ゆる〜い召喚日和になりそう。
この時の私は、そう思っていた。
池の周りをのんびり歩いて、お弁当を食べる。
それだけ。
最近いろいろありすぎた私には、むしろこういう普通の日が必要だったのかもしれない。
風は気持ちいいし、景色もいい。
……ただし写真を撮ろうとすると、なぜか私ではない謎の女性が召喚される。
ヒトナも笑っている。私も知らん。画像生成AIさんも、たぶん知らん。
そんな事故もありつつ、お昼は池のそばでピクニック。
お腹いっぱいになったら、当然こうなる。
レジャーシートに寝転んで、私はヒトナの隣へ。
風の音を聞いているうちに、いつの間にか目を閉じていた。
今日はこれで終わり。
そんな一日でもいい。
……はずだった。
「あ〜、よく寝た!」
目を開ける。
…………。
寝すぎた。
昼間は穏やかだった大谷池が、夜になるとまるで別の場所に見える。
月明かりが水面に伸びている。静かすぎる。
そして――
池のほうを見る。
「…………ん?」
人? 水の中に誰か立ってる。
いや。
足が……透けてない?
最初は、一人だった。
ところがもう一度池を見ると――
一人。
十人。
数十人。
気がついた時には、数える気にもならないほどの人影が水の中に立っていた。
そして全員、こちらへ近づいてくる。
「…………。」
「…………。」
寺で精神面を鍛えた。
精神力だって鍛えた。
でも聞いてない。
幽霊耐久訓練なんてメニューになかった。
逃げても逃げても、人影がいる。
前にもいる。後ろにもいる。完全に囲まれた。
その瞬間だった。
私が持っていたお守りが突然、強い光を放った。
光が広がり、目の前にいた人影が後ろへ退いていく。
道が開いた。
嫌だった。でも私は走った。
車までたどり着き、振り返る。
ヒトナは一人で残っていた。
そして――
お経を唱え始めた。
光の中で、一人、また一人と姿が消えていく。
やがて―― 誰もいなくなった。
…………。
いや。一人、足りない。
車の中から何度探しても、ヒトナの姿がない。
さっきまであんなに騒がしかった池は、不気味なくらい静かだった。
返事はない。
すると車の外から、小さな声が聞こえた。
「…………。」
涙が出た。
…………が。
実際のヒトナ。
車から見えない位置にしゃがんでいただけだった。
「…………。」
「…………ヒトナ。」
「ん?」
それでも、戻ってきたヒトナに頭を撫でられたら――
やっぱり安心した。
怖い思いをした後に必要なもの。
それは反省会でもない。
心霊現象の検証でもない。
糖分だ。
ということで、近くのお店へ避難。
さっきまで数百人の何かに追いかけられていた人間とは思えない速度で注文する。
そして――
甘い。平和。暖かい。
人間のいる店、最高。
……ちなみに写真を調整していたら、途中でヒトナもパフェも消えた。
結果、何もないところからスプーンだけ口に運ぶ謎のエリカが完成した。
今日、怪異多すぎない?
最後にヒトナが言った。
…………。私は黙ってヒトナを見る。
散歩して。
弁当食べて。
昼寝して。
ここまでは確かに平和だった。
なのに起きたら夜。
池には謎の人影。
何百人にも囲まれて。
お守りが光って。
ヒトナがお経を唱えて。
そのヒトナまで消えたと思って泣かされて。
最後はパフェ。
……まあ。こうして無事に帰れるなら、それでいいか。
と頭を撫でられる。
寺で鍛えた精神力。
今回、ちゃんと役に立った……のかもしれない。
ただし。次にヒトナが、「今日はゆる〜く行こう」と言った時だけは警戒することにする。
この人の「ゆるい」は、まったく信用できない。