前回――二人の手は、離れた。
静岡の樹海で野宿することになったエリカとヒトナ。
深夜、一人でトイレへ向かったエリカは、森の奥に立つ謎の人影を目撃した。
最初は遠くにいたはずだった。しかし――。
気づいたときには、もう遅かった。人影はエリカのすぐ後ろまで迫り、その肩に手をかけた。
ヒトナが伸ばした手。必死に伸ばすエリカの手。あと少し。ほんの少しだった。
それでも――。二人の手は、離れた。
そしてエリカは、謎の人影とともに樹海の闇へ消えていった。
ヒトナとエリカの手が離れた深夜2時――樹海の闇に消えたエリカを奪還せよ!居場所が分からず混線する召喚術、現れる謎の人影。ヒトナの決死のタックルと二人の絆が光を呼び戻す!泥だらけの樹海サバイバルから奇跡の生還、そして辿り着いた温泉旅館で待っていたのは……超特大ご褒美イチゴパフェ!?絶体絶命の樹海召喚サバイバル後編・完全決着!
静岡の樹海で野宿することになったエリカとヒトナ。
深夜、一人でトイレへ向かったエリカは、森の奥に立つ謎の人影を目撃した。
最初は遠くにいたはずだった。しかし――。
気づいたときには、もう遅かった。人影はエリカのすぐ後ろまで迫り、その肩に手をかけた。
ヒトナが伸ばした手。必死に伸ばすエリカの手。あと少し。ほんの少しだった。
それでも――。二人の手は、離れた。
そしてエリカは、謎の人影とともに樹海の闇へ消えていった。
ヒトナの声が夜の森に響く。返事はない。
ライトで辺りを照らしても、見えるのは木々と濡れた地面だけ。
さっきまであれほど騒がしかったエリカの声が、完全に消えてしまった。
妙に静かだった。静かで――少しだけ落ち着く。……いや。違う。
エリカがいない。ただそれだけで、この森はこんなにも静かになるのか。
さっきまで隣にいたエリカの温かさが、急に恋しくなった。
その頃――森のどこか。エリカは、まだ生きていた。
暗い。ここがどこなのかも分からない。そして目の前には――あの人影。
「…………。」
返事はない。
もちろん、それにも返事はなかった。
問題は、エリカの居場所が分からないことだった。
樹海を闇雲に探し回れば、今度はヒトナまで戻れなくなる可能性がある。
ならば――召喚。いつものように、エリカを呼び戻せばいい。
しかし、今回はうまくいかない。エリカ自身が、どこにいるのか分からないのだ。
そのとき。エリカ側から、とんでもない作戦が始まっていた。
…………。現れたのは――右足だけだった。
当然、やり直し。二度目。
今度こそ――。☕️
「…………。」缶コーヒー。
どうやらエリカに召喚術の才能は、あまりないらしい。
それでも、エリカとの繋がりは完全には切れていなかった。
エリカが必死にヒトナを呼び続ける。ヒトナもまた、エリカの存在を探し続ける。
そして――ついに召喚が繋がった!
光の中から現れたヒトナ。その姿を見た瞬間、エリカの表情が変わった。
まず確認する。右手、ある。左手、ある。右足、ある。左足、ある。
どうやら、まだどこも食べられてはいなかった。……危なかった。
再会を喜んでいる暇はない。エリカの背後。そこには、あの人影が立っていた。
普通の人間なのか。幽霊なのか。それとも――この森に存在する、まったく別の何かなのか。分からない。
ただ一つ分かるのは、エリカを簡単に返してくれる相手ではないということ。
「はぁ!?」エリカの顔が一瞬で怒りに変わる。
それでもヒトナは前へ出る。エリカは数歩だけ下がった。
人影が動いた。ヒトナも同時に踏み込む。
泥が跳ねる。雨に濡れた地面で、二つの影が激しくぶつかる。
相手は人間のようにも見える。だが、普通ではない。何度押し返しても立ち上がる。痛みを感じているのかすら分からない。
「……やっぱり、こいつ。普通じゃない。」
正面から倒し切れないなら、動きを止める。ヒトナは相手の動きを見ながら、隙を狙った。そして――。
それでも人影は倒れない。むしろ再びエリカへ手を伸ばそうとする。
やっぱり狙いはエリカなのか。パフェばかり食べている18歳が、そんなに美味しそうに見えるのだろうか。
戦い続けても終わらない。なら――倒さなくてもいい。
必要なのは、逃げるための時間だけ。ヒトナは人影を地面へ押さえ込み、動きを封じる。
エリカが駆け寄る。そして――ギュッ。
ヒトナの手を、今度はしっかり握った。
前回。この手が離れた瞬間、エリカは森へ連れていかれた。だから今度は――絶対に離さない。
二人の手は繋がったまま。背後では、人影が再び動き始めている。時間はない。
二人で行く。同じ場所へ。一緒に帰る。
「せーの!!」「召喚ッ!!」
光が二人を包む。次の瞬間――森の空気が消えた。
冷たい雨。濡れた道路。遠くに見える街の灯り。そして――森の外。
「…………。」「…………。」
エリカが恐る恐る後ろを見る。人影はいない。
その瞬間。エリカが握っていた手に力を込めた。
本当に、帰ってこられた。
当然、そのまま野宿を続ける気などない。もう樹海は十分だ。二人は近くの旅館へ移動した。
暖かい灯り。人の気配。普通の建物。それだけで、さっきまでいた場所が別世界だったように感じる。
エリカはまだヒトナの腕から離れようとしない。
フロントへ向かう二人。泥だらけ。雨でびしょ濡れ。どう見ても普通の観光客ではない。
受付の人は笑顔で対応してくれた。エリカはヒトナの横で、何事もなかったような顔をしている。
しかし。つい数十分前まで、謎の人影に食べられそうになっていた女である。
案内され、部屋へ向かう。
廊下の暖かな灯りを見ているだけでホッとする。さっきまでの森とは正反対だ。
部屋に入った瞬間、エリカは大きく息を吐いた。
そりゃそうだ。今日は冒険という言葉では済まない。即決だった。
温泉へ行く準備を始める二人。
さっきまで泥だらけで森を走り回っていたとは思えない。
エリカがじとーっとこちらを見る。
ごもっとも。
温泉に浸かる。温かい。静か。そして何より――もう逃げなくていい。
エリカは湯船の中で、ぼんやり今日の出来事を思い返していた。
人影に肩を掴まれたこと。ヒトナの手が離れたこと。一人で森の奥へ連れていかれたこと。
そして――もう一度、ヒトナが目の前に現れたこと。最後に握った手。今度は離れなかった。
エリカは自分の手を見る。
もちろん本人の前では、なかなか素直に言わない。
温泉から上がり、浴衣に着替える。
ようやくいつものエリカに戻ってきた。そして――何か大切なことを思い出したらしい。
やっぱり。
運ばれてきたのは――想像以上に巨大なパフェだった。
しかし数秒後には、すでにスプーンを握っている。
イチゴ。アイス。生クリーム。フルーツ。今日一日の恐怖を全部上書きする勢いで食べ始めた。そして一口。
どうやら完全復活したらしい。
今回の冒険は、これまでとは少し違った。
エリカが一人で乗り越えたわけではない。ヒトナが全部解決したわけでもない。
一度は離れてしまった二人の手。それをもう一度掴んで――最後は二人で逃げた。
倒せない相手なら、無理に倒す必要はない。怖ければ逃げてもいい。そして、一人で無理なら誰かの手を借りてもいい。
それでも最後に帰ってこられれば――きっと、それでいい。
こうして。エリカを連れ去った謎の人影の正体は、最後まで分からないまま。二人は無事に帰ってきた。
そして――エリカ召喚日和は、まだ終わらない。次は、どこへ召喚されるのだろう。
樹海の深淵から始まったエリカ絶体絶命の危機。二人の信頼と決死の逆召喚、そして最後は極上温泉と特大イチゴパフェで大団円!
雨に濡れ、泥まみれになりながらも掴み直した二人の絆は、また一つ深まりました。
エリカ「次は絶対!美味しいスイーツ巡りか安全なリゾートにしてよね!!ヒトナ!!😤✨」
【静岡・樹海サバイバル編 完】